2020.04.26
院長ブログ
こんにちは、院長の西村です。
前回予告した通り、今回は猫のフィラリア症(糸状虫症)についてお話ししたいと思います。
みなさん、猫もフィラリア症にかかることをご存知でしょうか?
すでに予防されていてご存知の方もおられると思いますが、その症状までは…という飼い主様がまだ多くおられます。
今回はその症状、犬との違い、予防の必要性についてお話しさせていただきます。
少々長くなりますがお付き合いください。
※長い文章が面倒な方は一番下のまとめをお読みください※
まず猫のフィラリア症ですが、実は感染するのは犬糸状虫(犬のフィラリア)なんです。
犬に寄生するはずのフィラリアが間違って猫に感染してしまい様々な症状を引き起こすのです。
フィラリアは、蚊が媒介する寄生虫で、主に犬に寄生し血管を通って心臓に到達します。心臓に寄生した虫は心臓の中で5−6年生存し、その間心臓の血管や弁膜を傷つけます。その結果心臓病を発症し犬の生命を脅かします。犬の主な症状としては心臓病の進行に伴う発咳、失神、死滅した虫体の塞栓による循環性ショックなどがあります。いずれも早急に治療を開始しないと命の危険がある危ない症状ですが、近年では予防の徹底によりフィラリア症で亡くなるワンちゃんを見ることはほとんどなくなりました。
では、猫の症状はどうでしょうか。
猫の場合、感染するのは犬のフィラリアだとお伝えしました。犬のフィラリアは本来犬に寄生できるように体ができていますので犬の体内では死なずに済みますが、本来寄生することのない猫の体内に入ってしまった場合、猫の免疫反応によってフィラリア幼虫は死滅してしまい通常は成虫になることはありません。
猫のフィラリア症の症状も発咳や呼吸困難なのですが原因が犬とは異なり、フィラリア幼虫が死滅した際に肺血管や肺間質に急性の炎症を引き起こす『犬糸状虫随伴呼吸器疾患(通称HARD)』と呼ばれる呼吸器疾患によるものと言われています。
次に多い症状として嘔吐があり、その他食欲不振、下痢、体重減少、沈鬱、虚脱などがあります。
そして、稀ではありますが猫に寄生した犬フィラリアの幼虫が運良く(運悪く?)成虫まで成長してしまった場合、犬のように心臓血管に虫体が塞栓し突然死を招いてしまいます。
猫のフィラリア症はこれまで動物病院で予防をあまり啓蒙されていませんでしたが、それには以下のような理由があると思います。
まず、HARDを含めこれらの症状はフィラリア症に特異的な症状ではありません。言い換えるとこれらの症状が出たからといってフィラリア症を1番目に疑う先生はおそらくいないということです。
また、通常犬の場合フィラリア検査をして感染を確認するのですが、猫では院内で行う抗原検査ではほぼ確認することはできません。抗原検査はフィラリアのメスのみを検出する検査であり、寄生数の少ない猫の場合は検出が難しいのです。猫の場合は一番検出されやすいのは10月頃で、抗体検査(外注)によって検査しますが感度はあまり良くありません。
さらに、仮にフィラリアが猫の心臓で成虫になったとしてもフィラリア症に罹患した猫の約3割は無症状と言われていますので、生前にフィラリアと診断されるケースは稀で、突然死をして初めて解剖検査で診断されることが多いようです。猫の突然死は約1割がフィラリア症と言われています。完全室内飼いで高層マンションの猫にも発生しているとのことです。
これらの理由から、動物病院ではあまりお目にかかることのない病気という概念があり、大きく取り上げられなかったんだと思います。
しかし、僕は隠れフィラリア症のネコちゃんがたくさんいるのではないかと思っています。下痢、嘔吐、体重減少、呼吸器症状など慢性消耗性疾患のような症状でも実はフィラリア症で、なんとなくの対症療法をされているケースなどあるのではないでしょうか。
猫に寄生したフィラリアが成虫になった場合、犬の場合と違いフィラリアの寿命は2−3年と言われています。また、猫の免疫により成虫も早く死滅する可能性があり、犬と比べて早期に突然死するリスクが高いと考えられます。
これがネコちゃんもフィラリアを予防していただきたい理由です。
予防は月に1回首の後ろに滴下するだけでとても簡単です。当院ではノミ・ダニも同時に予防できるタイプの薬を処方しております。期間は4月から12月頃ですが、ノミ・ダニは年中寄生するため可能な場合は通年予防していただくようお勧めします。
フィラリア虫体が血管に詰まることによる心肺停止は通常蘇生することは難しく、猫の場合は心臓のサイズの問題から外科治療も困難、内科的な成虫駆除も死滅した虫体が血管に詰まるため猫では禁忌となっております。
存命中に寄生を確認できた場合は、これ以上寄生数を増やさないようにする予防薬の投与と、今出ている症状(呼吸器症状など)に対する対症療法がメインとなります。
ですが、一度症状が出てしまうと短期間であっても肺の組織構造が破壊され、内科的な対症療法を一生涯続けなければならない場合もあります。
米国犬糸状虫学会のガイドラインでは、「フィラリアがみられる地域における全ての猫に対してフィラリア予防薬の投与を推奨する」とされています。
ネコちゃんのフィラリア予防が広まっていけば原因不明の突然死や呼吸器症状、下痢嘔吐などが減少するのではないかと思います。また、毎月予防をすることでネコちゃんの健康にも目が向くようになり、そのほかの病気も早期発見できるようになるのではないでしょうか。
フィラリアに関すること、全く別のことでも、気になることがありましたらお気軽にご相談ください!!
まとめです。
・猫に寄生するのは犬のフィラリア
・症状は主に呼吸器症状(咳、呼吸困難)
・下痢、嘔吐などフィラリア以外の病気との区別が難しい症状が多い
・虫体は通常猫の免疫で死滅するが、成虫になった場合突然死のリスク(犬よりも高リスク)
・猫の突然死の1割がフィラリア症
・マンション、完全室内飼いの猫にも感染が確認された
・犬と違い検査ではほぼ検出されない(生前診断は困難)
・犬よりも早期に症状が現れる
・治療は難しく、生涯にわたって対症療法が必要な場合がある
・予防は月に1回首の後ろに滴下